2017年9月11日月曜日


 7月に訪れたシシリー島の火山の登り口(登攀道路)からの眺め

今回も手抜きです。二週間ほど前、とある要件で、英国大使館に行き、在留証明その他を入手しました。その際、申し込みの用紙に年号を記載するのですが、元号での記載しか許されない仕組みにしつらえてありました。じつは昨年パスポートを切り替えるときにも、同じ目にあっていたので、西暦で書くけど、いいか、と係の人に確認したところ、例によって、大使館のお役人が出てきて、書式だから、書式に従わないと証明類は出せない、と言ってきました。根拠を聞いても答えない、わからない、書式だからの一点張り。それで、法的根拠がないものをどうして強制するのか理由を尋ねたところ、日本の外務省に確認するとの返事、そんなものを待っていたら二度手間になるので、いやいや元号で記入しました。いやいや書いたと断りのメモをつけて。それで、さきほど返事が届いたので、紹介します。それから、ついでに、この件を英国の国際交流基金が運営している(はずの)メーリングリストに投稿しました。以下がその内容。

メーリングリストの皆様、

日本語教育とは少し縁遠い話題で申しわけありませんが、先日とある事情で英国大使館に在留証明などの「申請」に行き、その場で担当の係官の方に西暦での記入の可否について、たずねました。先ほど、その後返事をいただきましたので、共有したいと思います。添付したものが、在英国日本国大使館からのご返事です。公式の見解ですから、公表してかまわないものと思います。なお、このような内容で、このメーリングリストにお知らせすることについて、ご迷惑にお感じの方もいらっしゃると思いましたが、これも「ことば(日本語)」の使用に関わる問題と考えましたので、お送りします。(関係のない話ですが、私が元号を使用したくない理由は、年号の記載法として合理的でないこと、「国際交流」の推進にとって障碍(しょうがい)になりかねないこと、国家による思想的な強制がみとめられることの三点です。)。これで、日本への渡航を考える英国在住の方々が、あえて元号に悩まされる必要も本来無かったことがわかりました。せっかくのことですから、西暦で記入して何も問題が無いことがはっきり誰にでも(日本人以外の人にも)わかるように、「書式」に西暦の選択肢を明記していただければ混乱は避けられるのではないかと思います。
 なお、英国大使館のご担当の方からのご返事に、「和暦」という語がもちいられています。これにつき、日本国語大辞典は「われき(和暦)」の項に、「(1)「にほんれき(日本暦)」に同じ。(2)西暦に対して、日本の紀元および年号にいう。」とし、また、「にほんれき(日本暦)」の項には、「日本で使われた暦。明確に暦が使われるようになった持統天皇六年(六九二)以後現在に至るまでの間に使われた暦は、元嘉、儀鳳、大衍、五紀、宣明、貞享、宝暦、寛政、天保およびグレゴリオ暦である。このうち宣明暦までは中国の暦法を輸入したもの、貞享暦から寛政暦までは日本人の手になるものだが、中国の暦に経度差による補正をしただけで、日本人が初めから作ったのは天保暦だけである。天保暦までが太陰暦、明治六年(一八七三)から太陽暦のグレゴリオ暦になった。」とあります。つまり、「こよみ」の意義のほうが本来の意義であるというわけです。そこで、複数の意義のあるこの語よりも、「元号」と呼称したほうが明快だと思いますが(「元号法」は1979年制定)、何事もはっきり表現するのを避けるのが最近の流れであるのかなと感じました。今後のご参考になれば幸いです。

以下、英国大使館から頂戴したご返事です。

証明書の日付表記について(在英国日本国大使館)

石橋 教行様

日頃より当館業務にご協力いただき感謝申し上げます。

ご連絡が遅くなり大変恐縮ですが,先般,在留証明の申請の際にご照会のありました証明申請の際の西暦による日付記入について,外務本省担当部署からの回答がありましたのでご連絡いたします。

在外公館で発給している在留証明の書式については,先般,窓口にてご説明差し上げましたとおり,法令で定められているものではありません。従いまして,和暦の使用を強制する法的根拠はありませんが,世界各国にある在外公館が発行する公文書として書式を統一するために和暦を使用しております。 
和暦の使用を強制する法令は存在しないと考えられますが,これまで書式統一のために年の表記に和暦を記載いただくようご協力を求めてきております。一方で,石橋様のようにご自身の信条をもって西暦を使用されたいという申請者の方には,申請者ご自身が記載される日付については,西暦にてご記入いただいて問題ないとのことでした。ただし,館側が記載する部分については,これまでと書式が違うことで混乱を生むことを避けるため,和暦にて記載することになりますので,ご理解いただきますようお願いいたします。
今後,当館において在留証明をご申請いただく際,ご自身が記入される申請年月日については西暦で記載いただいて問題ありません。

ご連絡が遅くなりましたこと,重ねてお詫び申し上げます。

在英国日本国大使館 証明担当

ついでに、もひとつ、大使館のお役人に宛てた返事も載せておきます。そんなこんなで、無駄な時間を潰しているこのごろです。

在英国日本国大使館 証明ご担当者様(どうしたわけか、お名前がありませんでしたので、このような呼称でご容赦下さい)、

ご返事ありがとうございます。翌日ご確認いただけるとのことでしたので、待ち遠しくご連絡を待ち遠しくお待ちしていました。
まず、私のお願いを聞き入れいただき、貴重なお時間を割いていただいたこと、感謝します。

ただ、このような当たり前のことをわざわざ尋ねていただかなければいけないという事実、また、窓口で、私が西暦を記入すれば証明が出せないという貴官のご発言を聞いて、わが耳を疑いましたが、必要に迫られ、意に反して元号での記入を強制されたことは、精神的な苦痛であったことをあらためて申し述べたいと思います。結果として、窓口でのご対応が法令に基づかないとことが明らかになりましたが、この点につき、謝罪などの言及がないこと、及び、今後も館側では私の記載通りにしないで、私の意思に反した記載を続けるというご方針である点は、たいへん残念に思います。また、このような日常の事務手続きのたびに、ほんらい内心の自由であるはずの(つまり他人から問われる必要が無いはずの)思想信条を持ち出さなければならないような事態は一刻も早くなくすべきであり、書式の変更を要請します。

なお、あくまでも元号使用(意図的な強制)にこだわり続けるご姿勢は、外務省、いや、日本の政府じしんが掲げている「国際化推進」との整合性が問われるのではないか、と考えます。元号を理解しない日本国籍者以外の方にも、同様の書式が強要されるのでしょうか、あるいは、別用紙が用意されているのでしょうか(そうであればダブル・スタンダードです)。多様性を保障し、他者に寛容な、ごくあたりまえの行政に是正されることを(先日の貴官のご対応からは絶望的と考えざるをえませんが)期待しています。

石橋教行